社会生活の中で複数人での対話はとても重要である.複数人対話において発話の内容に加え,誰が発話しているのか,いつ話者が移り変わったのかということは,発話内容を補完する重要な情報であると考えられる.健常者は話者を特定するため音声の到来方向を推定し,視野を音源方向に向けることで話者を特定することができる.このとき,両耳で感じられるそれぞれの音響信号の到達時間差・強度差から音源方向を推定している.しかし,聴覚障害者は音響信号を十分に知覚できないため,発話内容の理解が難しく,さらに話者の方向を正確に推定することが困難であるため,話者の遷移を素早く追従できないという問題がある.このような問題に対し,これまで多くの聴覚障害者支援システムが開発されてきた.
これまで様々な支援機器の開発が進められているとともに,聴覚障害者は読唇や手話などにより他者との意思疎通を図ることが可能である.読唇とは視覚を通じて唇の動き・形状から発話の内容を推定する技術であり,発話者に対し特別な技術が求められないため非常に有効な手段である.しかし,複数人対話において話者方向の推定が難しく,話者の特定に大幅な遅延が生じるため,読唇の開始が遅れ十分に発話内容を理解することができないという問題がある.そのため,話者の方向を実時間で推定し,聴覚以外の感覚により提示可能なシステムを構築することで,聴覚障害のレベルを問わず,話者の遷移の認知支援および読唇の支援が可能となる.
またそのような,人が本来持つ機能を代替・支援するシステムを考えた場合,単一で動作し,さらに身体への装着が可能であることが望ましいと考える.単一で動作可能な機器は環境に特別な機器を設置することなく支援ができ,またユーザの意思に従った操作が可能であるという利点を持つ.さらに,適切な形状・重量・機能の装着型デバイスとして実装することで,装着時にはそのシステムが身体の一部であるように作用することも可能であると考える.
本研究では,話者の方向を実時間で光提示する小型の腕装着型デバイスを適用することで,実時間で音源方向を推定し,推定結果を光により提示することで聴覚障害のレベルや使用環境を問わない支援システムの構築を目指す.
年度: 2011-
メンバー:
金子 佳裕
鈴木 健嗣
共同研究:
障害科学系
Tags:
- サイバニクス・拡張生体技術
- 次世代知能化技術
本研究は,本学の研究組織(人間系障害科学域)との共同研究により行われております.